2009年7月20日月曜日

カルパチア綺想曲

午前3時。玄関ホールからノッカーの重く硬い響きが伝わってきた。
その夜、ジョーは同僚のアランとのハンマー大王の取材を終え、深夜帰宅したところだった。6年ぶりに帰国した父ジェラード・アッテンボローと中国人女性ランファも一緒である。
青年貴族はヴルム伯の息子でイオンと名乗った。
ハンガリー独立運動の巨頭であるヴルム伯は捕えられ、カルパチア山中の城塞に幽閉されているという。ヴルム伯と旧知のアッテンボローに助けを求めたのだ。ジョーはある予感を感じていた。何かが起こる。確信めいた期待をこめて、彼らの話に聞き入った…
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物語の舞台はオーストリア・ハンガリー二重帝国(アウスグライヒ)。19世紀末は民族独立運動がヨーロッパを席巻していた。1867年に成立した二重帝国ではオーストリア皇帝がハンガリー国王を兼ねる。このような例は他にもあり、ロシア皇帝はフィンランド大公を兼ねていた。抑圧しようにも困難な民族独立運動をこのような形で取り繕っていた。二重帝国の解体は第一次世界大戦後である。

この小説の主人公は英国人である。1815年のナポレオンのセント・ヘレナ島流刑から1914年の第一次世界大戦まで約100年。英国本土は平和を満喫し、繁栄の世紀を迎えた。侵略はしたが侵略はされず、地球上の陸地の4分の1と海洋の大部分を支配した。太陽の没せざる大英帝国、ビクトリア女王の治世である。

1888年 切り裂きジャックの連続殺人
1889年 パリ国際万博
1890年 ロンドンに地下鉄開通
1891年 教育法成立。公立学校は無料になる。
1893年 トーマス・エジソン(アメリカ)が活動写真を発明
      ドイツでディーゼルが新型エンジンを発明
1894年 八時間労働法
1895年 H・G・ウェルズが「タイム・マシン」を発表
1896年 アテネで第1回オリンピック大会

議会政治の尊重と言論の自由。開明的な精神が英国を時代のリーダーにしたと言えるでしょう。事実上の世界共通語は英語。それこそ、英国にとって何物にも代えがたい大きな遺産かもしれません。

カルパチア山脈への中継点となるブダペスト(ドナウの女王)とアドリア海最北部の都市トリエステも興味深い。

大好きなこの本をご紹介したくて3回読みなおしました(本当)
是非、時代の空気を堪能して下さい☆

二重帝国 (Wikipedia)

カルパチア綺想曲(1994年)
田中芳樹

1 件のコメント:

  1. トランシルバニアの地名は「森の彼方」を意味する。気球の航行法など、トリビア満載!

    読み応えあり(^^)v

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